九州ロジスティクス活性化研究会3月度(第9回)開催のご報告

平成27年度第9回(3月度)の研究会は、「キユーピーのロジスティクス 〜コミュニケーション型SCMと3.11の気づき〜」と題して、キユーピー株式会社 執行役員ロジスティクス本部長の藤田正美様にご講演を頂きました。この日は奇しくも東日本大震災発生から5年目に当たる日で、キユーピーでは関東と近畿の拠点で大々的な防災訓練が行われる日であったにも関わらず、本研究会のため福岡にお越し頂きました。
同社のロジスティクスの特徴は、「意思決定は人が行う」ことを重視している点です。つまり、過度にシステムに依存せず、あくまでもシステムで処理された結果を社員自らが考えて分析し、議論と行動を重ねて意思決定することを重視しています。その背景には、かつて導入したSCMソフト(需要予測ソフト)によって、社員はソフトが算出した予測数値の「当たった/ハズレた」ばかりに関心を持ち、自分の頭で考える余裕が持てない状況に陥ってしまったため、思い切ってSCMソフトの利用を止めた結果、逆に予測精度が向上し、部門間のコミュニケーションや相互理解も深まった、という出来事があったとのことです。
また、同社が東日本大震災で得た気付きは、「日本の加工食品業界のSCMは行き過ぎであり、過度な日付の鮮度競争やリードタイム競争は、逆に製・配・販全体を含めた業界の体力を奪っているのではないか?」ということでした。震災直後の物流機能が混乱する中では「翌々日納品」も致し方なしの状況だったところ、むしろそのほうが荷役や配車を計画的に行うことができ、無駄を大幅に削減できることに気づいたのです。現在では、一部の取引先と「ASNとリードタイムを工夫した(翌々日の)検品レス納品」を実施し、納品時の荷受や車両待機、配送効率化によって、双方がコストダウンを実現しているとのことです。
我が国の食品廃棄の多さはしばしば指摘される一方で、賞味期限1/3を切ったものは棚に置かないという根拠の希薄な商習慣が依然として根強く、結果的に食品ロスの増大、製・配・販全体の疲弊とコストアップ、その結果として消費者への価格転嫁も生じているのです。現在、同社では「リードタイム見直し」「小口配送の削減」「配送物量の増減緩和(出荷ピークの分散)」を卸や小売に呼びかけていますが、道半ばでなかなか理解を得られにくい状況が続いているようです。(私自身もそうですが、)消費者は賞味期限1/3を切った商品の購入を是が非でも避けたいわけではありません。社会全体でこの問題に対する成熟した理解が進むことで、問題解決がなされることを期待したいところです。
現在、同社では「ロジスティクス本部からみた全社的ロスの削減」を掲げ、在庫の大幅減に向けた取組を開始しているとのことです。そのために、ロジスティクス本部が営業・生産・調達・・・等々、部門横断のプロジェクトを多く立ち上げ、単独部門の枠を越えた連携によって目的を達成しようとしています。
「イノベーションは、物事の"際(きわ)"に生じる」と言われますが、同社ロジスティクス本部の取組みは、まさに組織の枠を越える"際(きわ)"にこそ、収益の種が多く隠れていることを気付かせてくれる好例でした。
(文責:高田 仁、九州大学大学院経済学研究院)