九州ロジスティクス活性化研究会12月度(第6回)開催のご報告

平成27年度第6回(12月度)の研究会は、研究会メンバーからの発表ということで、公益財団法人アジア成長研究所客員研究員の藤原利久様から、「物流の重要性・日本の物流と課題・世界の釜山に学ぶ」という題目でお話を頂きました。

冒頭で、なぜ物流が重要なのかという点について、著名経営学者だったドラッカーの言葉を引き合いに出しつつ、我が国でなぜ物流業界の存在価値が向上していないのか?という問題提起を頂きました。

例えば、我が国を代表する神戸港が、80年代までは釜山と同程度のコンテナ貨物量を取り扱っていたにも関わらず、1970年代終盤のTS(トランシップ)比率50%近くにまで達したのをピークに、その後TS比率は低下を続け、阪神大震災以降はさらに低下に拍車がかかった一方で、韓国・釜山港は80年代?90年代と順調にコンテナ貨物量を伸ばし、今や東アジアを代表する港湾としての地位を築いた背景や理由について解説いただきました。

そこでは、つまるところ国家としての港湾・物流・産業政策およびそれにもとづく戦略の差異、顧客(荷主)の視点で計画や戦略を練って実行がなされたか否か、更には、政労使による国際競争力獲得に向けた合意と努力の差異が大きく影響しているとの指摘がありました。

近年、物流競争力強化のひとつの方向性としてRo-Ro船を活用したシームレス物流の重要性が挙げられますが、藤原様からは、「これは日本の製造業のジャストインタイムや各種カイゼンなど、もともと日本の産業が得意とする領域のはずだ」との着眼にもとづき、北部九州で先進的に取り組まれている日産九州の韓国との間での完全シームレスSCMや、金沢港でのコマツのシームレス物流などを事例として紹介いただきながら、課題や実現可能性についても解説頂きました。

日本の港湾物流について、残念ながら思考パタンが従来からのものに固定化されてしまっており、一方で韓国・釜山港がいち早くその従来型のパタンを脱却したことで大きく躍進したことを振り返ると、我が国のあちこちに変革が求められる固定観念が多く存在することに気付かされます。現状維持的な発想のままジリジリと価値を食い潰すのを見過ごすのか、それとも、時代の流れや顧客の要求を的確に見据えて、大きく変革し新たなイノベーションを創出するのか。残された時間は多くはないのではないか、と考えさせられた研究会でした。

(文責:高田 仁、九州大学大学院経済学研究院)