九州ロジスティクス活性化研究会10月度(第4回)開催のご報告

平成27年度第4回(10月度)の研究会は、「天気予報で物流を変える 需要予測精度向上による食品ロス削減及び省エネ物流プロジェクト」の題目で、一般財団法人日本気象協会事業本部防災ソリューション事業部の中野様にご講演を頂きました。

物流分野は、たとえ時代や技術が進んでも何らかの形で気象の影響を受けざるを得ないことは不変ですが、一方で、気象予測の精度は年々向上しています。産業活動の1/3が何らかの気象リスクを負っている状況からすると、物流分野でも気象情報や予測をもっと活用できるのではないかという問題意識にもとづき、気象協会として、天気予報と関連付けた需要予測精度の向上によって食品ロス削減と省エネを実現しようとするプロジェクトを、経産省補助事業として平成26年度から開始されたとのことで、今回の研究会はその概況について紹介頂きました。

講演の冒頭で、そもそも我が国の最終エネルギー消費量の約2割は運輸部門によるものであり、また、食品分野では売上高物流コスト費が全業種平均より高く、返品や回収・廃棄といったリバース物流コストが多く発生している現状の問題に触れられ、これまでの商習慣を見なおして、企業間で連携して次世代物流を構築し、廃棄ロス削減や省エネを実現する意義について説明されました。ちなみに、我が国の食品ロスは、全世界の食糧援助量(390万トン/年)よりも大きく、500~800万トンに達するとされており、その半分は流通段階で発生すると分析されています(年間の食品関連の返品額は約1,700億円に達するとのこと!)。これら食品ロス発生の主要因は、需要量の予測精度が不十分で、注文量のミスマッチだとのことで、従来からメーカー・卸・小売・物流業者が分断されたサプライチェーン情報にもとづいて独自に需要予測を行なっているため、全体最適な物流が実現しないとの問題が存在します。

一方で、近年の気象予測の高精度化は目を見張るものがあり、気象協会にて、プロジェクト参画企業の過去の売上データを用いて解析したところ、売上予測と気温との相関は、今や相関係数0.984、決定係数0.97という高い精度で説明できるとのことです。その結果、当該企業のある製品を対象とした事例分析では、平成27年度に一定の在庫削減効果が得られたとのことです。この高精度な気象予測を小売・メーカー・卸・物流企業が共通インフラとして利用できるようになると、食品業界全体で、在庫や食品ロスの大幅削減の可能性も出てきます(当然、それに伴う環境負荷低減効果も生まれます)。

講演後は、「濃霧による高速道路の通行止めの問題を回避する方策の有無」や「湿度予測による倉庫内ダンボールの適正管理(座屈防止)」「参画する各企業のインセンティブ設計の重要性」などについて参加者から質問が出され、意見交換が行われました。

今回紹介頂いた取組みは、いわゆる「ビッグデータ」の解析と利用に関するものでもあり、今後、業種や業界を越えた情報(ビッグデータ)の共有とその利活用によって、自社のみならず社会全体の恩恵(ベネフィット)をいかに最大化するか、新しい視点や発想が求められていることを確認できました。

(文責:高田 仁、九州大学大学院経済学研究院)